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新耐震基準とは?確認方法や旧耐震基準との違いを解説!
住宅の購入を検討していますが、近年の地震被害の状況を見て、地震に強い住宅がよいと思っています。そこで調べていると「旧耐震基準」や「新耐震基準」という言葉を目にしました。この2つにはどういった違いがあるのでしょうか?
耐震基準は、建物を建築する際に最低でも守らなければならない家づくりの基準です。1981年5月まで用いられていた耐震基準のことを「旧耐震基準」と呼び、それ以降に用いられている耐震基準のことを「新耐震基準」と呼びます。「旧耐震基準」は震度5強程度、「新耐震基準」では震度6以上の地震が発生しても倒壊しないように、基準が定められています。
情報提供:不動産鑑定士 竹内 英二
目次
耐震基準とは?
耐震基準とは、建築基準法で定められている耐震強度のことです。具体的には、地震の揺れに対し、建物が倒壊せずに耐えられる強度を指します。
日本国内で建物を建築する場合、国土交通省によって定められた耐震基準を満たす必要があります。補足すると、建物に関する法律である「建築基準法」は1950年に制定され、それに伴い「旧耐震基準」も定められました。建築基準法では耐震性のみならず、建築物の敷地や構造、設備に対しても基準を設けています。
「地震大国」といわれる日本は、これまで大震災が起きるたびに、耐震基準の見直しが行われてきました。そのなかでも、大きな法改正が行われたのは、1981年です。それに伴い、1981年5月以前まで適用されていた基準を「旧耐震基準」、1981年6月以降に適用された基準を「新耐震基準」と呼ぶようになりました。
長く安心して暮らしていくうえで、建物の耐震性は必要不可欠な要素になるため、これからマンションや一戸建てなどの住宅購入や不動産投資を検討している人は、必ず耐震基準について把握しておくようにしましょう。
そこで今回は、旧耐震基準と新耐震基準の違いやメリット、見分け方などをご紹介します。
旧耐震基準と新耐震基準の違いとは?
ここからは具体的に旧耐震基準と新耐震基準はどこが違うのかを見ていきましょう。
旧耐震基準は震度5強程度に耐えられる強度
旧耐震基準は、1950年から1981年までに適用されていた耐震基準を指しており、震度5強程度の中規模地震でも建物が倒壊せず、もし損傷したとしても補修することで生活可能になる構造基準として規定されていました。
しかし、1978年の宮城県沖地震の被害が想定されているものより大規模だったため、旧耐震基準の見直しが行われました。
新耐震基準は震度6強から震度7程度に耐えられる強度
1981年6月1日に施行された新耐震基準は、震度6強から7程度の大規模地震で倒壊、崩壊しないことが基準となりました。また、新耐震基準では、建物に多少の損傷はあったとしても、倒壊せずに建物内の人を守れるように基準が設けられています。
2000年になると、新耐震基準はさらに厳しい改正が実施されます。1995年に起きた阪神淡路大震災の被害をもとに新耐震基準の弱点が見つけられ、「2000年基準」と呼ばれる改正が行われました。
2000年基準により追加された主な内容は、以下の通りです。
●木造住宅において地盤が重さを支える力に合わせた基礎を造る
2000年基準では、木造住宅において地盤がどれくらいの重みを支えられるのかを表す「地耐力」を調べる地盤調査を行うことが必須になりました。しっかりと重さを支えることのできる地盤でないと、住宅の重みに耐えきれず、建物が沈んでしまいます。
●引き抜けを防止するために柱、梁などの接合部に金具で強化する
柱や梁の接合部が緩いと、揺れが起きた際に、柱の下部や上部が抜けてしまい、建物が倒壊してしまう可能性があります。それを防ぐために、2000年基準では、接合部で使用する金物の種類が指定されました。
●耐力壁をバランスよく配置する
新耐震基準では、地震の横揺れや、台風による強風に耐えるための耐力壁の量を増やすことが追加されましたが、2000年基準では耐力壁のバランスを計算し、偏った配置にしないような規定になりました。阪神淡路大震災の発生当時、多くの建物では、南側に窓をたくさん設置するため、耐力壁が北側に偏っており、そういった建物が倒壊する例が後を絶ちませんでした。そのため、耐力壁をバランスよく配置することが重視されるようになったのです。
耐力壁の偏り度合いは「偏心率」で示され、偏心率がゼロに近いほど、バランスがよい建物といえます。
新耐震基準のメリットとは?
では、新耐震基準を満たした住宅にするとどういったメリットが得られるのでしょうか?ここからは、新耐震基準を満たすことで得られるメリットを順にご紹介します。
住宅ローン控除が受けられる
新耐震基準を満たしている住宅の大きなメリットは、「住宅ローン控除」を受けることができ、節税になる点です。住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の0.7%を所得税額から最大で13年間控除できる制度です。新耐震基準を満たしていれば、中古住宅でも住宅ローン控除を受けることができます。※1
中古住宅で住宅ローン控除を利用する場合、その住宅が新耐震基準を満たしている必要があります。なお、1982年より前に建てられた住宅において住宅ローン控除を受けるためには、「耐震基準適合証明書」や「住宅性能評価書(耐震等級1以上)」などを取得し、耐震性を証明しなくてはなりません。リフォームにより耐震改修を行った場合も同様です。一方で、1982年以降に建てられた住宅であれば、これらの書類がなくても新耐震基準を満たしていると認められます。
耐震基準適合証明書とは、新耐震基準である1981年6月以前に確認申請承認を受けた建物が、現在の耐震基準をクリアしているかを証明する書類です。この書類を取得するには、事務所に所属している建築士や指定確認検査機関などの専門機関に、対象となる物件の調査を依頼し、かつ耐震基準に適合している建物であることを認定してもらうことが必要です。
●住宅ローン控除に関する記事はこちら
住宅ローン控除の最新の情報をご紹介しています。
フラット35を利用できる
新耐震基準を満たしていれば、中古住宅の場合でも「フラット35」を利用することができます。フラット35とは、住宅の購入や新築、一部をリフォーム、増改築を行う際に利用できる住宅ローンのなかの1つを指します。住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して融資を行うフラット35は、一般的に民間金融機関が独自で運営する住宅ローンほど厳しい審査がないのが特徴です。
なお、確認申請承認日が旧耐震基準の住宅はフラット35の対象とはなりませんが、耐震基準適合証明書を取得した住宅であれば、フラット35を利用することができます。
●フラット35に関する記事はこちら
フラット35に関するメリットや注意点などをご紹介しています。
旧耐震基準と新耐震基準の建物を見分ける方法は?
ここまで旧耐震基準と新耐震基準の特徴を紹介してきましたが、実際に旧耐震基準と新耐震基準の建物を見分けるにはどういった方法があるのでしょうか?ここからは、購入する住宅を決定する際にも重要となる、旧耐震基準と新耐震基準の建物の見極め方をそれぞれご紹介します。
建築確認日を確認する
建築確認日を確認することで、旧耐震基準と新耐震基準の建物を見分けることができます。建築確認日とは、着工前に設計士が確認検査機関や行政などに図面審査を申請し、問題がないと判断されて建築主に建築確認通知書が発行される日のことです。着工は建築確認通知書が発行された以降に行われます。
建築確認は、確認が行われる時点の建築基準法に基づいて行われるため、建築確認日が1981年6月1日以降であれば新耐震基準であるということになります。建築確認日は建築確認通知書で確かめることが可能です。
調査書を取り寄せる
万が一、建築確認通知書を確認できなかった場合、「建築確認概要書」や「建築確認台帳記載事項証明」などの建築に関する調査書を取り寄せる方法があります。
建築確認概要書には、建物の大きさや敷地面積に加え、その建物がどのような計画で申請を行ったのか概要が記されています。建築確認概要書は、各自治体の担当窓口で無料閲覧することができますが、コピーや写真撮影ができるかどうかは、各自治体によって異なるので必ず確認するようにしましょう。自治体によってもルールが異なりますが、建築確認概要書には受付日(申請日)と建築確認通知書の発行日(建築確認日)の両方の日付が押印されています。建築確認概要書を受領したら、どの日付が建築確認日に該当するのか、窓口で同時に確認することをおすすめします。
一方の建築確認台帳記載事項証明は、建築確認通知書や検査済証を紛失した場合に、代わりとして発行できる書類です。こちらは各自治体の担当窓口にて有料で発行しています。
なお、取り寄せる際には、建築当時の地名や番地などが必要です。万が一、当時の情報が分からない場合は、法務局に問い合わせることで、建物情報を把握することができます。
新耐震基準はどれくらい強い?
新耐震基準は旧新耐震基準と比較してどれほど強いのでしょうか?ここからは、新耐震基準と旧耐震基準を比較して見ていきましょう。今回は、阪神淡路大震災と熊本地震を例に説明します。
阪神淡路大震災
阪神淡路大震災は、1995年1月17日に兵庫県南部で起きた大規模地震のことをいいます。この地震では、マグニチュード7.2、最大震度は7を記録しました。
以下のグラフは、「阪神淡路大震災建築震災調査委員会による報告書」という資料を参考に作成したものです。※2
阪神淡路大震災建築震災調査委員会の報告によると、この地震によって1981年(昭和56年)以前に建築された建物のうち39%が倒壊または崩壊、大破しており、約41%は中破、小破していることが分かります。1982年(昭和57年)以降に建てられたものと比較すると、1981年以前に建築された建物は、耐震性が低いといえるでしょう。
熊本地震
熊本地震は、2016年4月14日および16日に益城町中心部で起きた地震です。この地震は、短い間に震度7が2回も観測された過去に例を見ない大きな地震です。熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会によると、旧耐震基準の木造建築物の倒壊率が28.2%だったのに対し、新耐震基準の木造建築物は、2.2%でした。この結果からも、新耐震基準は旧耐震基準と比較すると、耐震性が強化されていることが分かります。
耐震診断とは?
耐震診断とは、旧耐震基準で設計された建物について、新耐震基準での耐震性の確認を行うものです。旧耐震基準の建物を購入する場合は、あらかじめ耐震診断を受けておくとよいでしょう。ここでは、耐震診断のポイントとして項目と費用をご紹介します。
項目
耐震診断の際には木造の建物を対象としたものと、鉄筋コンクリート造の建物を対象としたものがあります。
●木造の建物の診断方法
木造の建物について行う診断方法には、以下のようなものがあります。
・誰でもできるわが家の耐震診断※3
一般財団法人日本建築防災協会が作成した、住宅の持ち主が自分で行うことができる簡易的な診断方法です。具体的には、住宅が建てられたのはいつ頃かといったような簡単な質問に10個回答する方法となります。また、診断の結果から、次にお伝えする専門家が行う一般診断法を受けたほうがよいかどうかが判断できます。
詳細は、一般社団法人日本建築防災協会のホームページをご確認ください。
・一般診断法
建築士や建築技術者などの専門家が行う診断方法です。診断方法は、建物に関しては壁の仕様(耐力壁や雑壁)や壁周辺の柱頭、柱脚接合部の仕様および劣化の調査を行い、建物周辺の地形や地盤の調査も行います。一般診断法では、破壊を伴う調査はありません。
・精密診断法
精密診断法は必要に応じて、壁の一部の内外装材を剥がして行う診断方法を指します。壁や柱の強度を調査し、一般診断と比較すると精密な結果を出せる点が特徴です。
●鉄筋コンクリート造の建物に対して行う診断方法
鉄筋コンクリート造の建物に対して行われる診断方法は以下の3つです。
・1次診断法
現地調査は行わず、柱と壁の断面積やコンクリートの強度から診断するものです。この診断法の場合、補強設計は行えません。
・2次診断法
現地調査を行い、柱や壁の強度に加え、鉄筋の粘り強さも診断項目となります。鉄筋コンクリート造の耐震診断において、一般的に多く用いられる診断方法です。
・3次診断法
2次診断法の診断内容に加えて、梁の強度も対象となります。また、建物が風圧力や地震力などの水平力に対してどれほど耐えられるのかを示す「終局耐力(保有水平耐力計算と同レベルのもの)」も算出されます。この診断法は、特殊な建物に用いる傾向があります。
費用
耐震診断を行った場合、費用はいくらほどかかるのでしょうか?耐震診断を行った場合の具体的な費用の目安は以下の通りです。
建物の種類 | 費用 |
---|---|
木造 | 約30~60万円(延床面積120m2) |
鉄骨造 | 約1200円~3000円/m2(延床面積1000~3000m2) |
鉄筋コンクリート造 | 約1000円~2500 円/m2(延床面積1000~3000m2) |
●鉄骨造りに関する記事はこちら
鉄骨造の種類や、メリット、注意点などをご紹介しています。
耐震性の高い物件を選ぶようにしよう!
今回は新耐震基準と旧耐震基準の違いについて見てきました。建築基準法で定められた耐震基準は「最低限守らなくてはならない基準」です。耐震基準を満たすことは、安心して暮らすうえでもちろん必要な要素ですが、ここまでにお伝えしたように税制上の優遇を受けることにもつながります。しかし、たとえ新耐震基準を満たしていたとしても、建物の劣化具合によっては、想定以上の被害が出る恐れもあります。新耐震基準だけで判断するのではなく、建物自体の細かい部分にも目を通すようにしましょう。
具体的には、十分にメンテナンスがされているか、どういった方法で施工が行われているか、また地盤自体が安全な状態なのかなどを細かくチェックすることが大切です。
しかし、自分で調べたり、チェックをしたりしても分からないことも出てくるでしょう。そういった場合は、専門知識のある建築士や不動産会社に相談をしてみるのもおすすめです。プロのアドバイスを参考にすれば、納得のいく家選びをできる可能性が高まりますよ。
耐震基準は、安心して暮らすために非常に重要な要素の1つです。住宅選びをする際は、安心して長く暮らせる住宅を探しましょう!
※1出典:国土交通省「住宅ローン減税」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000017.html#
(最終確認日:2023年1月31日)
※2出典:建築震災調査委員会「建築震災調査委員会による報告書」
https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/eqb/0100055684/shinsai-11-43.pdf
(最終確認日:2023年1月31日)
※3出典:日本建築防災協会「誰でもできるわが家の耐震診断」
https://www.kenchiku-bosai.or.jp/taishin_portal/daredemo_sp/
(最終確認日:2023年1月31日)
情報提供:不動産鑑定士 竹内 英二
株式会社グロープロフィット代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、不動産キャリアパーソン、中小企業診断士。不動産の専門家として、不動産鑑定やコンテンツのライティングを行う。
HP:https://grow-profit.net/