マンション購入ガイド
所有権移転登記とは?かかる費用、必要な書類と手続きの流れなど
家を購入する予定があるのですが、その際に「所有権移転登記」が必要だと聞きました。所有権移転登記とは具体的にどういったものなのでしょうか?また費用としては、どれくらいかかるのでしょうか?
「所有権移転登記」とは、土地や建物を購入したときに、その所有権が売主から買主に移ったことを明確にするために行う登記のことです。登記することで、その土地や建物が自分のものだと、第三者に対して法的に主張することができるようになります。また、所有権移転登記の際は、税金や司法書士への報酬が必要な場合があり、具体的な金額は所有権移転の原因や所有する不動産の内容によって変わります。
情報提供:不動産コンサルタント 秋津 智幸
目次
所有権移転登記とは?
不動産の購入を検討している人のなかで、「所有権移転登記」という言葉を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか?
所有権移転登記とは、不動産の所有権を前の所有者から新たな所有者に移ったことを明らかにするために行う登記のことです。不動産売買だけでなく、贈与や相続などで所有権が移ったときにも必要になります。
不動産を取得したときに、「よく分からなくて…」と登記を行わず放置していると、その後に相続が発生した場合により複雑な手続きになってしまいます。また、知らぬ間にその不動産の所有権を第三者に主張されてしまったら、場合によっては取り返しのつかないトラブルになる可能性もあるでしょう。
こうしたトラブルを防ぐためにも、所有権移転登記についてしっかりと正しい理解を持ち、きちんと手続きをすることが大切です。所有権移転登記は、これからマイホームを購入する人や、将来相続の可能性がある人には必要な手続きなのであらかじめ知っておきましょう。
●登記に関する記事はこちら
登記の種類や費用についてご紹介しています。
所有権移転登記が必要なとき
具体的に所有権移転登記が必要になる場面はいろいろありますが、代表的なものとして「売買」「相続」「贈与」「財産分与」の4つについて、それぞれのケースと注意すべき点についてご紹介します。
売買
不動産を売買した場合、所有権は売主から買主へ移るため、所有権移転登記が必要になります。所有権移転登記の手続きをいつまでに行わなければならないかについては、法的な定めはありません。ただし、法的に第三者に対して対抗するためには登記されていることが必要なので、所有権が移転する原因が発生したら、速やかに行いましょう。
一般的に、不動産の売買を行う際は、司法書士に手続きを依頼して、所有権が移転するその日のうちに登記を済ませてもらいます。司法書士は、売主と買主の決済・引渡しに立ち合い、双方の本人確認を行い、不動産の取引が本人の意思に基づいているか、問題なく取引が完了したかを確認します。
不動産売買の際に登記を行わないと、さまざまなトラブルを招く可能性があります。たとえば以下の流れでトラブルが発生するケースです。
・不動産の買主が不動産の代金を支払う
・所有権移転登記を行わずにそのまま売主名義で放置
・その間に元の売主がほかの購入希望者に売却(二重譲渡)
この場合、後から買った人が所有権移転登記をしてしまうと、最初の買主は登記していないことから、その不動産の所有権を後から買った人に主張することができません。代金を支払ったのに自分の不動産と主張できずに泣き寝入りしなければならなくなってしまう場合もあります。そのようなトラブルを防ぐためにも、不動産を購入した場合は必ず速やかに所有権移転登記を行いましょう。
相続
親や祖父母の名義だった不動産を自分が相続した場合も、所有権移転登記をする必要があります。相続を原因とする不動産の所有権移転登記を「相続登記」ということもあります。相続の場合は、不動産も法定相続分は所有権を主張することができますが、登記していなければ第三者に対して自分(相続人)の権利だと主張することはできません。
そのため実務上、登記していなければ権利が不明確なため、相続人であってもその不動産を売買することはできません。なお、法定相続分とは、相続人ごとに民法で定められた相続財産(亡くなった人の全財産)に対する相続できる持分のことです。
また、所有権移転登記を先延ばしにしている間に相続人(この場合は自分)が死亡してしまうと、その配偶者や子ども、兄弟姉妹等が相続人になり、権利関係が複雑化してしまいます。
このように、未登記のまま相続が続くと、相続した不動産を売却しようと思っても、簡単には手続きを進めることができなくなります。最悪の場合、一部の相続人の反対によって、売買自体ができなくなる可能性もあります。そういったトラブルに陥らないためにも、不動産を相続した場合も、所有権移転登記を忘れずに、かつ速やかに行いましょう。
贈与
贈与で不動産を取得した場合も所有権移転登記の手続きが必要です。贈与とは、たとえば不動産であれば、不動産所有者が存命中に、その不動産を指定する者に無償で譲り渡すことを意思表示し、相手方がそれを受けた場合に成立する契約のことをいいます。
不動産の贈与を受けたにもかかわらず、所有権移転登記を行わず、贈与者が登記簿上の所有者のまま死亡した場合、贈与者の相続人に相続の権利が発生してしまいます。贈与の事実が公示(第三者に分かるように明示)されていないため、より相続が面倒になってしまうことがあります。
財産分与
離婚の際の財産分与についても、不動産を自分の財産とするには所有権移転登記が必要です。財産分与とは、夫婦が結婚生活を送るなかで築いた財産を、離婚の際に正当に夫婦間で分けることをいいます。万が一、登記をしなかった場合、権利のある分与された財産でも所有権の主張ができず、売買することもできません。
特に離婚の場合、時間が経過してしまうと、相手との連絡が取りにくくなり、登記手続きの作業が滞ってしまう可能性もあります。場合によっては、時間の経過によって相手の意思が変わってしまい、譲らないと主張することもあります。そのため、離婚が成立した場合に、分与財産が不動産であれば、すぐに不動産の所有権移転登記手続きを行いましょう。
所有権移転登記にかかる費用
所有権移転登記には、登録免許税のほか、司法書士へ登記手続きを依頼する場合の報酬など、さまざまな費用がかかってきます。ここでは、それぞれいくらくらいかかるのか、その目安をご紹介します。
司法書士への報酬
所有権移転登記の手続きは、相手方と権利移転の構成を作るために司法書士に依頼するのが一般的です。その際、同じ登記手続きでも、依頼する司法書士や事務所によって報酬額が異なってきます。また、地域や扱う不動産の種類や数(土地は筆数、建物は棟数)、手続き前の準備の複雑さなどでも大きく違ってきます。目安としては5〜10万円程度で見ておくとよいでしょう。
不動産売買で仲介として不動産会社を利用した場合は、仲介した不動産会社から紹介される司法書士や事務所に依頼する傾向にありますが、そこでの報酬額が妥当かどうか分かりにくいでしょう。しかし、最近は司法書士事務所のホームページでオンライン見積りが可能な場合も多く、事前に報酬額を比較検討することができるので、あらかじめ条件をそろえたうえでチェックすることをおすすめします。
ただし、売主やローンを利用する金融機関によっては、指定された司法書士や事務所を使うことを条件としているケースもあります。その場合は、登記費用の金額について交渉することはできますが、司法書士や事務所を変更することが難しいでしょう。
登録免許税
登録免許税とは、登記手続きをする際に発生する税金で、不動産登記の場合には、建物と土地の権利の移転や設定の登記それぞれに課されます。納付方法は、原則として税務署や金融機関で現金での納付になりますが、税額が3万円以下の場合は、登録免許税額分の収入印紙を購入し、申請書に貼り付けて納付することが可能です。
また、登録免許税はインターネットバンキングやATMを利用した納付も可能です。利用する場合は、納付にかかる手数料を確認するようにしましょう。
自分で登録免許税を計算する際は、所有権移転登記の場合、下記の計算方法で求められます。
「固定資産税評価額」 × 「税率」
固定資産税評価額とは、不動産にかかる固定資産税の基準となる価格のことで、3年に1度の頻度で見直されています。固定資産税評価額は、市町村長(東京都は都知事)が固定資産評価基準に基づき決定した価額で、市町村(東京都は都)が管理する固定資産台帳に記載されています。
登録免許税を計算する際には、市町村(東京都は都)が発行する固定資産税評価証明書を取得して、不動産(土地、建物)の価額を確認します。
なお税率は、所有権移転の理由によって変わってきます。具体的な税率は下記の表の通りです。
登記の種類 | 税率 |
---|---|
売買による土地・建物の所有権移転登記 | 2.0% |
相続による土地・建物の所有権移転登記 | 0.4% |
贈与による土地・建物の所有権移転登記 | 2.0% |
たとえば、固定資産税評価額3000万円の土地を購入した場合の登録免許税は、以下のように求められます。
3000万円(固定資産税評価額) × 2.0%(税率) =60万円
●登録免許税に関する記事はこちら
登録免許税の計算方法や軽減措置について詳しく解説しています。
前述したように登録免許税は土地と建物の権利の移転や設定それぞれにかかるため、複数の移転や設定があった場合、課税額の合計が高額になる可能性があります。
しかし、一定の要件を満たせば軽減措置を受けることができます。この軽減措置のうち、新型コロナウイルスの影響を受け、土地の売買による所有権移転にかかる登録免許税の適用期間は、2023年3月31日まで延長されることが決定しました。
具体的な軽減税率と適用期限は以下の通りです。
本則税率 | 軽減税率 | 適用期限 | |
---|---|---|---|
売買による土地の取得 | 2.0% | 1.5% | 2023年3月末まで |
住宅用家屋の所有権移転(※1) | 2.0% | 0.3% | 2022年3月末まで |
新築等の認定長期優良住宅・認定低炭素住宅の取得(※2) | 2.0% | 0.1% | 2022年3月末まで |
※1 移転理由は問わず、個人が居住用に供する床面積50m2以上の家屋、中古住宅の場合は築25年(木造の場合は築20年)以内または一定の耐震基準に適合する家屋の所有権移転。
※2 戸建ての長期優良住宅の所有権移転については、軽減税率が0.2%となります。
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長期優良住宅の認定を受ける方法やメリットを詳しくご紹介しています。
手続きの実費
手続きにはここまでご紹介した司法書士への報酬や登録免許税以外にも、対象となる不動産について「不動産の調査費」や「書類の収集にかかる費用」など、さまざまな諸費用がかかってきます。たとえば、所有権移転登記の際には、その不動産に関する情報が記載された書類である登記簿を取得しなければなりません。登記簿は、1通600円で取得できます。
また、登記する際には、登記原因が記載されている書類も必要になってきます。相続の場合は、複数の戸籍謄本が必要になることがあり、戸籍謄本を収集するうちに発行手数料が1万円を超える可能性もあるので注意しましょう。
前述した費用に加えて、必要書類を郵送する際や戸籍収集を専門家に依頼する場合は、その都度、費用が発生する点も押さえておきましょう。
必要書類と手続きの流れ
所有権移転登記をする際には、法務局に提出しなければならない書類がいくつかあり、それは所有権を移転する原因ごとに異なります。ここでは、全ての場合に共通して必要となる書類をご紹介していきます。また、売買では現実的にほぼできませんが、相続や贈与では可能なので、司法書士に依頼せずに自分で登記を行う際の手続きの流れもお伝えします。
必要書類
所有権移転の全ての登記原因に共通して必要な書類と主な入手先は以下の通りです。
必要な書類 | 入手先 |
---|---|
本人確認書類 | |
印鑑証明書および実印 ※売買、贈与、財産分与の場合は、現在の所有者 ※相続の場合は、相続人全員のものが必要な場合がある |
市区町村の役場、マイナンバーカードを持っている場合は、コンビニでも取得可能 実印は自分が保有しているもの |
現在の所有者(被相続人や売主)の登記済権利証または登記識別情報 | 登記名義人本人(被相続人や売主) |
最新の固定資産評価証明書 | 市区町村の役場 取得にあたっては所有者本人か、委任状を持参した者のみ取得可 |
現在の所有者と新所有者となる者の住民票の写し | 市区町村の役場 |
登記原因証書 | 売買の場合は、売買契約書の写し 相続の場合は、遺産分割協議書等 贈与の場合は、贈与契約書等 |
司法書士への委任状 | 現所有者と新所有者双方の本人により作成 |
●本人確認書類
本人が確認できる運転免許証やマイナンバーカードを用いるのが一般的で、顔写真付きのものが必要になります。
●印鑑証明書および実印
印鑑証明書は、マイナンバーカードがあれば、コンビニでも発行することが可能です。各市町村役場で発行してもらう場合、交付された証明書の発行日が申請日の3か月前以内になっている必要があるので注意しましょう。
●現所有者の登記済権利証または登記識別情報
登記識別情報は不動産の所有者を法的に示す書類で、登記名義人が所有しているものです。2005年3月までは、登記済権利証と呼ばれていましたが、それ以降は登記識別情報として12桁の符号が記載された書類が登記名義人宛てに送付されています。
なお、登記識別情報通知書を失くした場合は、司法書士や公証人に本人確認情報を作成してもらう必要があります。
●固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は、各市区町村役場で入手できます。ただし、取得にあたっては所有者本人または委任を受けた者に限られます。また、自治体によっては申請先が異なる場合もあるので、事前に確認が必要です。
●住民票の写し
登記には、現所有者の住所の確認が必要なうえ、新所有者の住所が記載されるため、現所有者と新所有者本人の住民票が必要になります。住民票の写しは、現住所とその直前の住所が記載されていますが、何度も引越しをしている場合は、全ての履歴が記載されている必要がある場合もあるので、注意しましょう。
●登記原因証書
所有権を移転する理由によりますが、共通なものとして登記原因証書は必要になります。それぞれ売買なら売買契約書、相続なら遺産分割協議書や遺言書(公的に正式なもの)、贈与なら贈与契約書といったものが登記原因証書となります。
●司法書士への委任状
司法書士に依頼する場合は、委任状を作成する必要があります。売買する場合は、売主、買主、相続の場合は、全ての相続人や関係者が署名と捺印をする必要があります。
このほか、贈与や相続、財産分与など移転の原因によっては、家系図や離婚協議書などの書類が必要です。
手続きの流れ
手続きの主な流れは4つの段階に分けることができます。
[ 1 ] 書類の準備
登記申請書の作成と必要書類を集めます。申請書の様式は法務局のサイトからダウンロードすることができます。申請書以外に必要な書類のうち、自分で用意できない印鑑証明書や固定資産税評価証明書などは取得できる人に頼むか、委任状を入手して取得する必要があります。
[ 2 ] 提出
必要書類と申請書、登録免許税の支払いをした領収書(税額が3万円以下の場合は、登録免許税額分の収入印紙を購入し、申請書に貼り付けて納付)を法務局に提出します。
[ 3 ] 法務局で内容確認
内容に不備がないかを審査します。不足書類や申請内容に不備がある場合には、申請者に連絡があるので、その不備を修正します。
[ 4 ] 登記完了
登記が完了したことを記した登記完了証と所有権が移転した後の登記識別情報通知書が交付されます。交付後は、郵送または申請した法務局で直接受け取ります。窓口で直接受け取る場合は、申請時に使用した印鑑と身分証明書を持参する必要があります。
所有移転登記はなるべく早く行うのがおすすめ!
今回は、所有権移転登記について解説してきました。所有権移転登記の申請には期限はありませんが、できる限り早めに行うことをおすすめします。手続きをしなかったために自分の所有権が第三者に対して主張できなかったり、いざその不動産を売却したいと思っても、自分の不動産として明示されていないのでそのままでは売却できません。所有権移転登記を行っていないことで発生するトラブルを避けるためにも、早めに行いましょう。
なお、相続や贈与の場合、所有権移転登記は自分で行うこともできますが、専門知識が必要になってくるので、確実に登記を行いたい場合は、その道のプロである司法書士に代行してもらうのが王道といえるかもしれません。分からないことや困ったことがあれば、一度、専門家に相談してみましょう。
情報提供:不動産コンサルタント 秋津 智幸
不動産サポートオフィス
代表コンサルタント。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。不動産コンサルタントとして、物件の選び方から資金のことまで、住宅購入に関するコンサルティングを行なう。
HP:http://2103-support.jp/?page_id=14