マンション購入ガイド
家を現金一括で購入したらどうなる?メリットや注意点を解説
気に入った物件を見つけ、新築マンションを購入する予定です。利子や手数料などの経費を考えると、住宅ローンを組むより現金一括で購入した方がお得なのでしょうか?現金一括購入で損することもありますか?現金一括購入のメリットや注意点を教えてください。
マンションを現金一括で購入するメリットは、住宅ローンを利用した場合の融資手数料や利子など、総支払額を抑えられることや、ローン利用の手続きの手間と時間が減ることなどです。注意点は購入後の生活資金などのこと。そのほか、住宅ローン控除といった減税制度が利用できないこともありますが、条件を満たせば所得税が控除されるケースもあります。
情報提供:不動産コンサルタント 秋津 智幸
目次
家は現金一括で購入した方がよい?
マンションや戸建てなどの家を購入するには、まとまった資金が必要ですよね。そのため、住宅ローンを組んで購入するのが一般的ですが、住宅ローンを利用すると、利子や融資手数料といった費用が発生します。
「もし、まとまった資金があるなら、現金で一括購入した方がお得なのでは?」と考える人もいるかもしれません。そこで今回は、現金一括購入のメリットや注意点を解説します。
●住宅ローンの不安に関する記事はこちら
住宅ローンの利用について紹介しています。全国の住宅ローン利用率データも記載しているので参考にしてみてください。
現金一括で購入するメリット
家を現金一括購入する場合には、いくつかメリットがあります。それぞれどんなメリットがあるのか見ていきましょう。
購入手続きの負担が少ない
現金一括で購入する場合は、住宅ローンを利用する場合と比べると手続きの負担が少なくなります。現金一括購入の場合と、住宅ローンを利用した場合、それぞれに必要な手続きや書類を比較してみましょう。
●必要な手続き
現金一括と住宅ローン利用での手続きの違いを表にしました。
現金一括購入の場合 | 住宅ローンを利用する場合 |
---|---|
1.物件の購入申し込み | 1.物件の購入申し込み |
2.売買契約(手付金の支払い) | 2.住宅ローンの事前審査 |
3.物件の残代金の支払い(決済)=引き渡し | 3.売買契約(手付金の支払い) |
※2〜3は同時に行われることもある | 4.住宅ローンの本申込み(ローンの審査) |
5.融資(ローン)承認 | |
6.金融機関との金銭消費貸借契約(ローンの借入契約) | |
7.融資の実行 | |
8.物件の残代金の支払い(決済)=引き渡し |
上記の表の通り、家を現金一括で購入する場合は、住宅ローンを利用する場合と比べて購入する手間や時間が大幅に軽減・短縮されます。現金一括購入では、住宅ローンの手続きが必要ありません。そのため、購入を急いでいる場合は購入申し込み後、売主の都合や家の状態もありますが、早ければ1週間程度で売買契約、同時に引き渡し・決済とすることも可能です。
一方、一般的に住宅ローンを使用する場合、申込み手続きや審査、契約などのため、引き渡し・決済までに、売買契約締結後約1~2ヶ月かかることがほとんどです。
●必要な書類
現金一括と住宅ローン利用での必要書類の違いを表にしました。
現金一括購入の場合 | 住宅ローンを利用する場合 |
---|---|
・住民票(登記用) ・本人確認書類(写真入り身分証明書) ・印鑑証明書(登記用) ・印鑑(実印と認印) ・銀行決済の場合は通帳、銀行印、キャッシュカード |
・住民票(金融機関提出用と登記用) ・印鑑証明書(金融機関提出用と登記用) ・印鑑(実印と認印) ・収入証明書類(確定申告や課税証明書、源泉徴収票など) ・物件資料(ローン審査用) ・銀行の通帳と銀行印 ・その他金融機関から要望のあった書類 |
上記のように、現金一括購入であれば、住宅ローンを利用する場合と比べて金融機関に提出する書類が必要ありません。
また、家を購入すると不動産登記をする必要がありますが、現金一括購入の場合、ローンを利用した場合に必要になる抵当権設定が不要になり、所有権移転登記のみとなります。
住宅ローンの利子を支払う必要がない
現金一括購入は、住宅ローンを利用しないため、利子を支払う必要がなくなります。経済的なメリットとしてはこの部分が最大といえるでしょう。
近年ではマイナス金利政策によって、金利は低くなっています。加えて、インターネットバンクの台頭や住宅ローン専門の金融機関の登場といった背景から、住宅ローン金利は過去最低水準の超低金利となっています。
とはいえ、最長で35年もの住宅ローンを組んだ場合、支払う金利の総額は相当な金額になりますよね。現金一括購入であれば、住宅ローンの利子がかかりません。
たとえば、5,000万円の住宅ローンを金利0.5%、35年ローンで組んだ場合、35年間で支払う利子の総額は4,512,928円になります。現金で購入した場合はこの利子は不要となり、住宅購入にあたって支払う総額はこの分抑えることができるのです。
購入時の諸経費が少ない
利子だけではなく、購入時の諸費用も、住宅ローンを利用する場合より抑えることができます。住宅ローンを利用しないため、住宅ローンを借りる際に金融機関に支払う融資手数料、住宅ローンの保証を行う保証会社への保証料、金銭消費貸借契約書に添付する印紙代なども不要になります。具体的にどのような費用が節約できるのか見ていきましょう。
●団体信用生命保険
現金一括購入の場合、住宅ローンを利用しないため、団体信用生命保険に加入する必要がありません。従って、団信保険料の支払いも不要になります。団体信用生命保険とは、住宅ローンの契約者が死亡したり高度障害状態に陥った場合に、住宅ローンの残債相当分が保険会社から金融機関へ支払われる保険のことです。
住宅ローンの利用に際しては、団体信用生命保険(団信)への加入を条件としている金融機関がほとんどです。現金一括購入では、住宅ローンを利用しないため、この団信保険料も不要になります。
●住宅ローン保証料
現金一括購入であれば、住宅ローン保証料も不要になります。住宅ローン保証料とは、契約者が住宅ローンを支払えなくなってしまった場合に備えて支払うものです。契約者に代わり、保証会社に金融機関へローンの返済をしてもらうための保証委託契約料として支払います。
金融機関により保証料の支払い方法や回数は異なりますが、一般的に住宅ローン関係の諸経費の中で最も高額といわれます。マンションを現金一括購入するときは、この住宅ローン保証料も不要です。
●そのほかの購入時の諸経費
以上のような例のほか、現金一括購入であれば、購入代金のほかにかかるお金や手数料などの諸費用も少なくて済みます。次の表は、現金一括購入と住宅ローン利用それぞれの諸経費項目をまとめたものです。
現金一括購入の場合 | 住宅ローンを利用する場合 |
---|---|
・登記費用(所有権移転登記のみ) ・印紙代(売買契約時) ・固定資産税、都市計画税の日割清算金 ・マンション管理費の日割清算金 ・修繕積立金の日割清算金(新築マンションでは修繕積立準備金) ・仲介手数料(売主から直接購入する場合は不要) ・火災保険(任意) |
・登記費用(所有権移転登記と抵当権設定登記) ・印紙代(売買契約時と金銭消費貸借契約時) ・固定資産税、都市計画税の日割清算金 ・マンション管理費の日割清算金 ・修繕積立金の日割清算金(新築マンションでは修繕積立準備金) ・仲介手数料(売主から直接購入する場合は不要) ・融資手数料 ・保証料(金融機関の保証利用時) ・火災保険料(金融機関から加入が条件となっていない場合は任意) |
また、このほかに、現金一括購入・住宅ローン利用いずれの場合も、物件引き渡し後に「不動産取得税」が発生します。
●住宅ローンの金利に関する記事はこちら
住宅ローンの金利の意味や種類、負担軽減の方法をご紹介します。
●団体信用生命保険の基本情報に関する記事はこちら
住宅ローンを利用する際に加入を条件とされることが多い団信(団体信用生命保険)についての基本情報をご紹介します。
住宅取得等資金贈与の非課税措置を利用できる
現金購入に限ったものではありませんが、親や祖父母から資金の贈与を受けて住宅を購入する場合は、贈与税の非課税措置を受けることができますよ。贈与税は、下記2つの場合において非課税になります。
・年間の贈与額が基礎控除額である110万円以内の場合
・住宅を購入・新築・増改築などする際に親や祖父母など直系尊属からもらった資金であり、一定の条件を満たす場合
また、上の2つは併用が可能です。
家を現金一括で購入する場合の注意点
メリットの多い現金一括購入ですが、注意点もあります。具体的にどのような注意点があるのか見ていきましょう。
手持ちの資金が減る
家を現金一括で購入すると、手元の資金が一度に、そして大幅に減ります。家を購入した後も、税金や管理費などで維持費が必要になります。また、新居で必要な家具家電をそろえたりと、ライフスタイルの変化によっても追加で資金が必要になるかもしれません。
そのため、現金一括で家を購入する場合も、購入した後のことも視野に入れて資金計画を立てましょう。
●マンション購入後の費用に関する記事はこちら
マンション購入後にかかる費用や税金についてご紹介します。
住宅ローン控除が適用されない
現金一括で購入する場合、住宅ローンを利用せずに物件を購入することになるので、当然ながら住宅ローン控除が適用されません。住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して家を購入した場合、一定の条件を満たすと、毎年年末の住宅ローン残高に応じて所得税や住民税が控除される住宅ローン減税制度です。
住宅ローン控除については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてチェックしましょう。
●住宅ローン控除に関する記事はこちら
住宅ローン控除についてご紹介しています。
税務調査が入ることがある
マンションや一戸建てなどの住宅を現金一括購入すると、購入資金をどうやって調達したかを調査するため税務署から連絡が来る場合があります。
住宅購入資金という大きな資金の流れを確認するために行われています。資金がどのように調達されたのか、本人以外の誰かからの贈与でないかどうか(贈与税の課税対象かかどうか)、不正な資金が使われていないかなどを確認します。
この連絡に対してあいまいな返答をすると、正式な税務調査が入ってしまう可能性があります。しかし、正当な資金で適正な申告さえしていれば過剰に心配する必要はありません。連絡が来ても慌てないように、不動産の売買契約書や贈与に関する書面や資金の流れのわかるもの、贈与ではない場合は金銭消費貸借契約書(借用書)など、関係書類をしっかり管理しておきましょう。
火災保険に加入し忘れる恐れがある
現金一括で家を購入した場合、火災保険に加入し忘れてしまう可能性があります。住宅ローンを組んで住宅を購入する場合、火災保険への加入を条件とする金融機関もあり、火災保険への加入を検討、加入する機会があります。これに対し、現金一括購入する場合には火災保険への加入が完全に任意なので、火災保険への加入を見過ごしてしまう恐れがあるのです。
木造住宅ではない比較的燃えにくい住宅では、火災保険は不要と考える人もいますが、やはり加入しておいた方が安心です。
現金一括購入でも、マンションの場合は、不動産会社が火災保険を始めとした補償プランをパッケージ化して用意していることがありますので、確認してみるのもよいでしょう。
なお、火災保険に加入する場合は、補償内容を確認するのはもちろん、火災保険の付保日(いつから保険が適用になるか)についてもしっかり確認しましょう。
●火災保険に関する記事はこちら
マンションを購入する際に加入必須といえるのが火災保険。火災に限らず家のさまざまな損害を補償してくれる火災保険について紹介します。
自分の経済状況に合った購入方法を選ぼう
ご紹介してきたように家を現金一括で購入することには、よい面もありますが、同時に手元から一気にお金がなくなってしまうということでもあります。
マンションや戸建てなどの住宅を購入することは、新しい生活の始まりです。新生活を始めるにあたって必要な資金もありますし、将来の子どもの誕生や養育、教育にかかる費用、大きな病気にかかった際の医療費など突発的な資金の準備も欠かせません。
現金一括購入を検討する場合は、それ以外に必要なお金についても考えてみることが大切です。家を買う際は、自分の経済状況に合った購入方法を検討しましょう。
「現金一括購入できるだけの資金はあるけど、やっぱりちょっと不安...」と感じた人は、頭金を多めに準備することで、住宅ローンの利用額を減らし、利子の負担を減らす方法もありますよ。現金一括購入か住宅ローンを利用するかで迷ったら、物件を販売する不動産会社やファイナンシャルプランナーに購入後の資金計画もシミュレーションをしてもらうのもおすすめです。
マイホームの購入は一生を左右する大きな買い物ですので、特に現金で購入する場合には将来の資金計画も踏まえて支出する額に無理がないか、しっかり計画を立ててから決断するようにしましょう!
この記事のまとめ
この記事では、マンションや一戸建てを現金で一括購入する際のメリットや注意点についてご紹介してきました。最後に、大事なポイントを3つおさらいしましょう。
住宅を現金一括で購入する際の注意点は?
控除や給付金などといった制度を利用することができません。家の支払い方法を選ぶ際は将来的な資金計画を踏まえたうえで決定するようにしましょう。
●詳しくはこちら
住宅を現金一括で購入するメリットは?
購入手続きの手間が少なく、購入時の諸経費が少ないといったメリットがあります。また、住宅ローンを組まないため、利子を支払う必要がない点もメリットといえるでしょう。
●詳しくはこちら
住宅を現金一括で購入する際に必要な書類は?
必要な書類としては、住民票や本人確認書類、印鑑証明書などといった書類が必要になります。現金一括購入は、金融機関に提出する書類が不要なため、住宅ローンを利用する場合と比べると必要書類が少ないといえます。
●詳しくはこちら
情報提供:不動産コンサルタント 秋津 智幸
不動産サポートオフィス 代表コンサルタント。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。不動産コンサルタントとして、物件の選び方から資金のことまで、住宅購入に関するコンサルティングを行なう。