マンションの修繕積立金とは?管理費との違い
分譲マンションでは、住宅ローンの返済のほかに、毎月さまざまな支払いが発生します。その代表的なものが「修繕積立金」と「管理費」です。
なかでも修繕積立金は、10年から30年先と長期にわたる建物、特に共用部分のメンテナンスのために、区分所有者が毎月、管理組合に支払って積み立てる将来のための大切な費用です。マンションの建物の老朽化に備え、建物本体や設備などを維持するためには、定期的な点検や修繕、更新は必ず行わなければなりません。
賃貸住宅では、建物の所有者であるオーナーが建物などの修繕を行いますが、分譲マンションの区分所有者は自分が建物等の所有者となるので、当然、その費用を用意しなければなりません。ただし、マンションの共用部分は区分所有者全員で維持していくことが必要になります。十数年に一度行う大規模修繕では、マンションの規模にもよりますが、数千万~億単位という費用になります。
そうした費用を区分所有者が皆、一度に用意することは難しいものです。そこで、将来必要な修繕費を見積もり、毎月少しずつ積み立てていく方法が取られており、それが修繕積立金となります。修繕積立金額の見積もりの根拠となるのが長期修繕計画で、マンションごとに30年程度先まで計画されています。
また、マンションの毎月支払う費用のなかには、修繕積立金のほかに管理費がありますが、修繕積立金と管理費は、一部似たような使い方をするのでその違いが分かりにくいものです。2つの違いを簡単に説明すると、次の通りになります。
修繕積立金…計画的にマンションを修繕するための費用
管理費…日々マンションを維持するための費用
マンションの修繕積立金と管理費の使い道
では、修繕積立金や管理費がどういった用途に使われているのか、具体的に見ていきましょう。
修繕積立金の使い道は?
マンションの建物の耐久性は年々向上していますが、経年に伴い劣化は免れません。そこで、外壁や屋上、エントランス、階段といった建物本体のうち共用部分に該当するもの、配管やエレベーター、駐車場や駐輪場などさまざまな付帯設備のメンテナンスは、快適な居住空間を維持していくためには非常に重要なものとなります。
修繕積立金で行う工事の種類
- 10~13年周期で行われる大規模修繕(外壁補修、屋上防水、オートロックの改修、配管補修、共用廊下のシート貼り替え、バルコニーなどの鉄部塗装など)
- 機械式駐車場などの設備の部品交換、防サビ・塗装補修
- エレベーター等の部品交換、全面改修
- 各部屋の共用部分にあたる玄関ドア、サッシ、上下水道や電気配管など
- 大型改修(駐輪場の増設など)、補修(地震や風水害等の災害による補修など)
修繕積立金は、上記のほか管理組合で、修繕積立金として支出するにふさわしいと判断されたものに対しても費用が使われることがあります。
なお、修繕積立金は基本的に管理組合が作成した長期修繕計画に従って計画的に使われていますが、不測の事故や災害などの特別な事情により、修繕積立金を取り崩して使用する場合もあります。たとえば震災などの損壊により修繕積立金を取り崩すことなどがその例です。
計画外の多額の費用が生じる場合は管理組合の総会決議での決定を要します。
マンションの管理費の使い道は?
長期修繕計画に則って使われる修繕積立金と違い、マンションにおける日々の快適な生活を維持するために使用されるのが管理費です。
管理費の用途
- 共用部分の水道光熱費(エレベーター、電灯など)
- 共用部分の電球等の消耗品代
- 管理会社への委託費(管理人などの人件費や清掃代など)
- エレベーターや消防設備などの点検費用や軽微な補修
- 管理組合の運営費(報告書の印刷代や総会等で出されるお茶代など)
- 軽微な植栽(植木)の剪定(植栽が多いマンションでは計画的に剪定を行い、修繕積立金が使われることもあります)
管理費ではこのほか、共用部分の軽微な補修や毎月必要な必要経費といったものに使われます。
【最新版】 修繕積立金の相場とは?
ここからは、国土交通省が平成31年(2019年)4月26日に公表した、最新版の「平成30年度 マンション総合調査」に掲載された修繕積立金に関する調査結果から、マンションの完成年次による修繕積立金の相場を見ていきましょう。
築年数で見た修繕積立金の相場
完成年次 | 修繕積立金平均額 |
---|---|
昭和60年〜平成元年(1989年) | 12,154円 |
〜平成6年(1994年) | 12,760円 |
〜平成11年(1999年) | 13,447円 |
〜平成16年(2004年) | 12,649円 |
〜平成21年(2009年) | 12,386円 |
〜平成26年(2014年) | 9,846円 |
平成27年(2015年)以降 | 6,928円 |
上記によると、おおむね築年数の浅いマンションは修繕積立金が安い傾向にあるということが分かります。これは、新築時には修繕積立金の額が低く設定されていることと、実際に建物が古くなるにつれて必要な費用がはっきりし、そこから修繕積立金の額を改定していくので、築年数がたつにつれて高くなっていくものと思われます。
これを㎡単価で見てみると以下のようになります。
㎡あたりの修繕積立金の相場
完成年次 | ㎡あたりの月額相場 |
---|---|
昭和60年〜平成元年(1989年) | 182円 |
〜平成6年(1994年) | 257円 |
〜平成11年(1999年) | 191円 |
〜平成16年(2004年) | 153円 |
〜平成21年(2009年) | 150円 |
〜平成26年(2014年) | 126円 |
平成27年(2015年)以降 | 93円 |
全体平均 | 179円 |
完成年次の観点から相場をまとめたものが上の表になりますが、ここから分かるのは、やはり基本的に築年数が新しいほど安くなっており、築年数が古いほど高くなっているということです。年数を経るごとに修繕にかかる費用が増えていくことが、単価でも見えてきます。
では、戸数別に見た修繕積立金の相場はどのように違っているのでしょうか?
戸数で見た修繕積立金の相場
総戸数規模 | 修繕積立金平均額 |
---|---|
31〜50戸 | 12,952円 |
51〜75戸 | 10,581円 |
76〜100戸 | 11,535円 |
101〜150戸 | 10,775円 |
151〜200戸 | 12,698円 |
201〜300戸 | 12,883円 |
301〜500戸 | 14,496円 |
501戸以上 | 13,719円 |
結果として、戸数が少ない小規模マンションと、150戸を超えるような規模の大きなマンションは、一戸あたりの修繕積立金が高額になる傾向があります。小規模マンションでは、維持する共用部分の規模に対して修繕費を負担する戸数が少ないため、どうしても一戸当たりの修繕積立金の額が大きくなってしまうのです。
一方、マンションの規模が200戸、300戸と大きくなるにつれて、共用部分も増えるため、修繕費の負担も増えていきます。特に、タワーマンションなど超大規模マンションでは、付帯設備が充実しており、建物の構造上、特殊な修繕方法を必要とするなど、一般的には修繕費用が高くなるため修繕積立金が最も高いという結果になるようです。
それでは、次に修繕積立金の算出方法について触れていきましょう。
修繕積立金の算出方法
長い期間にわたり、計画立ててマンションの維持費を積み立てる修繕積立金ですが、大規模な修繕費用がかかる場合、一度に高額な費用の徴収があっては困りますよね。そのため、分譲マンションではきちんとした計画のもと、資金を積み立てていきます。では、その金額はどのように算出されているのでしょうか。
長期修繕計画について
最初の修繕積立金の金額を決める根拠となるのが、マンションの分譲時に作成された長期修繕計画で定めた修繕の内容です。長期修繕計画とは、25年や30年といった長期的なマンション共用部分の修繕箇所や内容を定めたものです。一般的にはその修繕の周期や修繕に必要な金額も各マンションデベロッパー等の経験をもとに定められています。
たとえば、10年後の大規模修繕で5,000万円が必要となる計画であれば、毎月の修繕積立金を5,000万円以上積み立てられるような金額にしなければなりません。
通常は、以下の流れで毎月支払うべき修繕積立金額が決定されます。
- 新築時に「修繕積立基金(修繕積立金の基礎となる一時金)」を徴収
- 必要な残りの金額を月額にまで割り戻す
- 各部屋の面積(持分)に応じて各部屋に金額を割り当てる
修繕積立基金とは?
新築マンションを購入すると、諸費用のなかに「修繕積立基金」というものがあります。これは、修繕積立金の基礎となるものです。
新築入居後に、修繕積立金をゼロから積み立てる計画にすると、数年間は万一の修繕に対応することができません。そのため、最初にマンションの各部屋の所有者全員で出し合って修繕積立基金として一定額を準備しておきます。
また、修繕積立基金を最初に一定額確保することで、毎月の修繕積立金の支払いを無理のない範囲に抑える意味合いもあります。
ちなみに、修繕積立金はそのマンションの修繕に充てるための積立金(預託金)であり、消費(費用)ではないので、消費税はかかりません。管理費も同様に消費税はかかりません。
マンションの修繕積立金の適正額
長期の修繕計画を立てるにあたり、何か目安になる数値がなければ各戸別の金額を算出するのは難しいですよね。修繕積立金の適正額とは、どのように決まるのでしょうか。
国土交通省が平成23年(2011年)4月に公表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2021年9月改定)では、以下の5つに区分して修繕積立金の1㎡あたりの平均月額とその幅の目安(機械式駐車場を除く)を示しています。
階数/建築延床面積 | 平均値 | 事例の3分の2が包含される幅 | ||
---|---|---|---|---|
【20階未満】 | 5,000㎡未満 | 335円/㎡・月 | 235円〜430円/㎡・月 | |
5,000㎡以上〜10,000㎡未満 | 252円/㎡・月 | 170円〜320円/㎡・月 | ||
10,000㎡以上〜20,000㎡未満 | 271円/㎡・月 | 200円〜330円/㎡・月 | ||
20,000㎡以上 | 255円/㎡・月 | 190円〜325円/㎡・月 | ||
【20階以上】 | 338円/㎡・月 | 240円〜410円/㎡・月 |
機械式駐車場の1台あたり月額の修繕工事費
機械式駐車場の機種※ | 機械式駐車場の修繕工事費 (1台あたり月額) |
---|---|
2段(ピット1段)昇降式 | 6,450 円/台・月 |
3段(ピット2段)昇降式 | 5,840 円/台・月 |
3段(ピット1段)昇降横行式 | 7,210 円/台・月 |
4段(ピット2段)昇降横行式 | 6,235 円/台・月 |
エレベーター方式(垂直循環方式) | 4,645 円/台・月 |
その他 | 5,235 円/台・月 |
※機械式駐車場には、屋外・屋内、地上・地下等のさまざまなタイプがあるため、修繕工事費は個別性が強いことに留意してください。
この表を参考に、以下の計算式を通して実際の修繕積立金の目安を導き出してみましょう。
修繕積立金の計算式
(算出式) Y = A × X ( + B )
Y : 購入予定のマンションの修繕積立金の月額の目安
A : 専有床面積あたり・月あたりの修繕積立金の額(上表)
X : 購入予定のマンションの専有床面積(㎡)
(B : 機械式駐車場がある場合の加算額)
たとえば10階建て、機械式駐車場のない延床面積8,000㎡のマンションで、80㎡の部屋であれば、A = 252円、X = 80㎡であるため、平均値の目安として以下のような計算式が成り立ちます。
Y = 252円/㎡ ・ 月 × 80㎡= 20,160円
なお同じ部屋の幅の目安としては、上記の表から13,600円/㎡・月(170円)~25,600円/㎡・月(320円)となります。
同ガイドラインでは、外壁の補修に特殊な足場が必要になるなどの理由で、次の場合は比較的高い修繕積立金となることが示されています。
- 20階以上の超高層マンション(表の最下段)
- 機械式駐車場があるマンション(計算式のB)
修繕積立金の積立額は変わるので注意
修繕積立金はずっと同じ額であるとは限りません。むしろ、築年数が古くなるほど金額が上がる可能性があります。
値上がり傾向の修繕積立金
おおよそ10~13年おきに行われる大規模修繕などの工事の見積もりを取った際に、次回の大規模修繕に向けて修繕積立金の見直しが行われるという話はよく耳にします。物価上昇による資材や人件費の高騰などにより、修繕費用が当初の算出額より高くなってしまうこともあり得るからです。
また当初修繕積立金が低く見積もられていた場合は、最初の大規模修繕で積立額が不足してしまい、一時金が発生してしまうことも。そうした事態を受け、さらに将来を考えて、修繕積立金を値上げせざるを得なくなるということが現実に起きています。
さらに、バリアフリー工事や災害による補修など、当初の長期修繕計画に含まれない修繕や改修が発生することもあり、修繕積立金は近年値上がりする傾向です。
現実の状況を踏まえて大規模修繕終了後などに値上げとなることがある修繕積立金。将来もそのまま金額が据え置きになるとは考えず、値上がりすることもあると認識しておいたほうがよいでしょう。
低く見積もられ、不足する修繕積立金
修繕積立金が安いと助かる、負担が減ると考える方は少なくないかもしれませんね。住宅ローンの返済や管理費などの支払いがかさむ場合、修繕積立金が安いとありがたく感じることでしょう。
しかし、当初の修繕積立金が低く設定されてしまうと、結果として将来の修繕工事費用が不足してしまう場合もあります。
近年、修繕積立金の不足は社会問題化しており、安ければ安いほどよいというわけではなくなってきています。修繕積立金は、何よりそのマンションにとって適正な額となるよう計画的な積み立てが一番重要なのです。
中古マンションのなかには、まれに「修繕積立金なし」となっているマンションも見受けられます。しかし、何十年もの間、一度も修繕を必要としないということはあり得ません。大規模修繕が必要となった場合に、急に多額の費用を徴収されたり、その費用を用意できないために修繕がなされず、建物の劣化が進んだり…というリスクも考えられますので、修繕積立金がない、あるいは極端に低い場合は注意しましょう。
マンション売却時に修繕積立金は返金されるの?
大規模修繕に必要不可欠な修繕積立金ですが、分譲マンションを売却する際には積み立てたお金は返ってくるものなのでしょうか?
修繕積立金や管理費は返金されない
建築して築年数が浅いなど、まだ大規模修繕を行われていないマンションでは売却時に返金があるのでは、と考える方もいるかもしれませんね。
しかし、修繕積立金は建物や設備の維持や管理に欠かせない、重要な資金。そのため、通常管理規約にも返却されない旨は明記されています。
一旦徴収した修繕積立金をマンション売却時に個別に返還するとなれば、管理組合の運営が不安定なものとなってしまいます。そのためマンションの経過年数、所有者の居住年数や実際に修繕等に使用した金額、時期に関係なく、修繕積立金は返金されません。
これは管理費も同じことで、短期的なマンション管理のための管理費は既に経費が発生していることもあり、返金されないことになっています。
これまでの積み立ては次の区分所有者に引き継がれる
また、これまで積み立ててきた修繕積立金は、マンションの次の区分所有者に引き継がれます。
形式的には売却後に大規模なマンション修繕があった場合は、前の所有者が積み立てた修繕積立金を利用することになるのです。大規模修繕の時期は先でも、これまで住んでいた期間の建物の経年相当分の修繕費は、住んでいた人が負担すると考えれば、納得できると思います。
滞納があると督促や法的手段も
修繕積立金や管理費を滞納している場合には、管理組合から直接または管理会社を通して督促が行われます。それでも滞納分が支払われない場合は、簡易裁判所で少額訴訟を起こされたり、金額が大きいときは通常の訴訟を起こされたりする可能性があるため注意しましょう。
マンションの所有者である売主が修繕積立金や管理費を滞納しており、知らずにそのマンションを購入してしまった場合は、滞納分を次の所有者となる買主が支払う義務が生じる可能性があります。
これは区画所有法により定められ、契約により処理方法が変わってきます。債務の継承という意味で、負の資産を引き継ぐことには疑問の声も多いため、中古マンション購入では修繕積立金や管理費などの滞納にかかる債務や肩代わりの義務があるかどうか、トラブルを防ぐためにも必ず確認が必要です。
ただし、一般的に中古マンションの売買取引では、重要事項説明で修繕積立金や管理費の滞納の有無、滞納がある場合には金額について説明する義務があります。通常、売主である所有者が滞納している場合には、その滞納分を売主がきちんと清算することを条件とした契約になります。売主に滞納の事実がある場合は、売主が清算する旨の記載が契約書に書かれているか必ず確認するようにしましょう。
修繕積立金の重要性
マンションの建物も、風雨にさらされ、経年とともに劣化していくため、そのときどきの建物の状態に合わせて補修、交換等の修繕を施して維持していく必要があります。
この建物の維持に欠かせないものが、清掃や点検といった日々の管理と計画的な修繕です。しっかりした日々の管理と適正な修繕がなされていれば、そのマンションは良好な生活環境と資産価値が長期にわたり維持されます。
修繕積立金は、長期にわたるマンションの維持に、そして良好な生活環境を維持するため、ひいては大事な資産であるマンションの資産価値を維持するためにも必要不可欠なものといえます。
これからマンションを購入される方は、ぜひマンション管理やアフターサービスについても、販売担当者に確認するようにしましょう。
また、長谷工の住まいサイトでは、修繕積立金のようにマンション購入後に発生する費用や、分譲マンションの特長をまとめたページもあるので、気になる方は併せて確認してみてくださいね。
※1出典:国土交通省「平成30年度 マンション総合調査〔データ編〕,管理組合向け調査の結果」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001707279.pdf
(最終確認日:2023年3月27日)
※2出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747009.pdf
(最終確認日:2023年3月27日)